幻のラー油はやっぱり幻だった

小学生だった頃のある日。

部屋でマンガを読んでいると、
兄がドアを開け放つなりこう言った・・・

「おい、今日から俺のことをツースリーと呼べ」

え・・・なにそれ?
と当然の疑問を口にする若き日の自分。

「だからツースリーだよ。2と3だから『にいさん』だ。いいな!」

となぜか高圧的で満足げな兄。

いったいどうしたっていうんだい?にいさん・・・。

なんだかもやもやしながら、けれどそれ以来兄のことをツースリーと呼んでいる。あれから何十年か経った今でも・・・。

まぁ、ウソだけど。

いずれにしても子供のころの兄弟の会話なんてそんなものだ。
どこかくだらない、そしてなんだかほろ苦い。

ところが会社の先輩から聞いた先輩兄弟の会話は少々違っていた。

先輩家族とその弟家族が餃子パーティーをしていたそうで、そこに先輩、ある品を持ち込んだ。

ある品・・・石垣島ラー油を。

石垣島ラー油、別名“幻のラー油”。

当時それは知る人ぞ知る、知らない人は当然知らない、そんな逸品。

石垣島のペンギン食堂で販売されている。
けれど、石垣島まで行っても一人二本までしか買えない。

ネットでは六か月待ち、銀座の沖縄物産屋でも一か月に一回発売されるけれど、その日の午前中には全て売り切れてしまうという超人気商品。

先輩、これをパーティーに持ち込んだそうだ。

正直そんな行為はもう反則でしかないように思える。30代の女子の中に一人だけ20歳のピチピチが入っている合コンのようなものにも思える。いや、たぶん違うけど。

いずれにしても先輩の弟「兄ちゃん、これめっちゃうまいやん!」と叫びながら餃子をほおばったそうだ。

幻のラー油を入れたタレに餃子をつけ、それを食べ、またつけて食べ・・・と何度も何度もほおばったそうだ。

そうしてたどり着いた最終段階では・・・

「兄ちゃん、これもう餃子のタレいらんわ。ラー油だけでいけるわ!」とラー油だけで餃子を何度も何度もほおばったそうな・・・。

それが先輩兄弟にまつわる幻のラー油の話。

なんてほのぼのとした兄弟なんだろうと思った。
そしてラー油は実際それくらいにおいしいから納得の話だった。

自分も先輩にこのラー油を教えてもらい、おいしく餃子を食べている。

だからひとこと、
先輩にはお礼を言いたい。

スリーナインですと。

つまりは・・・

サンキューですと。

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