ベトナム料理屋で見た聖なる夜の奇跡

もうあと数日で12月。
そろそろクリスマスシーズンになる。

そういえばいつかの夜のこと・・・

仕事を終えて夕飯を食べるために東京駅辺りをぶらぶらしていた。

いつも通りひとりで・・・。

いや別にそれはいい。
太文字にするほどの話でもない。

ひとりの方が気楽だし。

ただ一つ、いつもと違ったのは、その日はクリスマスイブだった・・・。

いやいや、ほんと別にそれはいい。
俺、泣いてなんかなかったし。

街には聖なる夜を盛り上げるためのロマンチックな音楽が流れていて、同時に、その日だけ急にキリストを崇めるように西洋のイベントに浮かれるエセクリスチャンなカップル達で溢れていた。

彼らは雨が夜更け過ぎに雪に変わるようなロマンチックを求めているようでいて・・・

実際のところ、夜更け過ぎにはベッドの上でイチャイチャとチョメチョメしていて、どうせ雪なんか見ちゃいないんだから雪男にでも連れ去られて消息不明になればいいとすら思う。

そんな邪悪なことを考えながら歩いていると、ひとりで入れそうなベトナム料理のフォー専門店を発見した。ああ、ここだけはどうやら自分にも温かそうだ。今夜の食欲はここで満たそう・・・と多分ひとりでブツブツと言っていた。

店に入ると中には一人寂しくフォーをすする何人かのひとりぼっち達が占めていて、彼らは仲間を迎え入れるように『キミもかい?ようこそひとりぼっちの世界へ』の思いを秘めた無言の視線を送ってきてくれた。そんな目で見るんじゃないよ・・・。

それはそれは恐ろしく負のエネルギーで満ちていて、日本中のパワースポットがパワーを発散できるのは、この店からパワーを吸い取っているせいじゃないかと思わずにはいられないような空間がびっしょりしながらネットリと出来上がっていた。

そんな店内・・・

店長の気遣いなのかクリスマスソングなんぞは流れてはなく、代わりにマイケル・ジャクソンの『ビリー・ジーン』が激しく流れていた。

ひとりぼっちのために存在する店はこうでなくちゃいけない。
そのいつも通りの姿勢が好きだ。

正直、なんで今それ?という選択がすこぶる好きだ。たまらない。

ところでひとつ気になることがあった。

というのも、恐らく店側としては全てを理解した上でこの曲を流しているんだろうけれど、フォー専門店に向けての声援のようにマイケルが曲の途中で何度も何度も彼特有の甲高い声で『フォー!フォーー!』と奇声を発している。

そう、改めてお伝えするけれど、ここはフォー専門店だ。
マイコーに言われなくても十分にわかっている。

それにしても気のせいだろうか・・・

マイコーが奇声を発するたび、店の中のひとりぼっち達がフォーを食べる速度を速める。

マイコー:フォー!!
ひとりぼっち達:ズルー!

マイコー:フォー!フォー!!
ひとりぼっち達:ズルー!!ズルー!!

マイコー:フォーーーーーーーー!!!!
ひとりぼっち達:ズルルーーーーー!!!!!!

ウソだろ?
なんだろこれ・・・
食と音楽のコラボレーション・・・?

いや、マイコーとひとりぼっち達のコラボレーションか!?

ある意味、純粋なる聖なるものを感じた。
いいもの見せてくれてありがとう。

だからまだまだ早いけれどひとこと・・・

メリークリスマス、フォー!(for)ユー。

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