白いペンキ

ある時、とある国の空港で飛行機の出発を待っていた。

そんなときふと目に入った待合室の壁を塗る親方とその弟子のような二人。
その二人の様子が気になり、つい目が離せなくなってしまった。

というのもその親方、白いペンキを壁に塗るのになんの印も付けず、下書きなども一切せず、いきなりハケを使って塗り始めていく。


なんて大胆なんだろう。
その姿に妄想が膨らんだ・・・。

弟子:「ねぇ、親方、どうやったらそんなにまっすぐ塗れるの?」

親方:「そりゃおめぇ、心の中にまっすぐなモノ持ってりゃおのずとまっすぐ塗れるもんだ」

弟子:「まっすぐなモノってなに?」

親方:「そりゃあれだ。おめぇ、母ちゃんのこと好きだろ?」

弟子:「うん」

親方:「そうそう。そういうモノだ」

弟子:「けど母ちゃんはときどき怒るから嫌い」

親方:「母ちゃんってのは怒るのが仕事だからな。けど、おめぇ、母ちゃんだって辛いんだぞ?」

弟子:「怒るのが?」

親方:「そりゃそうだ。母ちゃんだっておめぇが嫌いで怒ってるわけじゃねぇからな、立派な大人にしてぇだけなんだよ」

弟子:「そっか。けど、だからかな、怒ったあとにもおいしいごはん作ってくれるから好き」

親方:「そうだろ。そういう母ちゃんの気持ちとか、おめぇが母ちゃんを好きな思いとかがまっすぐなモノだ」

・・・とかなんとか話してるんだろうか。

そうやって描いていく親方の白い線は見事に、そしてとてもわかりやすく、終わりが近づくにつれて上に向けて歪んでいった。

「あ〜あ〜あ〜!だから下書きしておけばよかったのに。とりあえず真っ直ぐな定規とか持ってないの?」

と頭の中が真っ白に塗られた気分になりながら親方に向かって心の中でつぶやいた。

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