世の中、思いもよらぬところに落とし穴がある。
近所の洋食屋でランチコースを食べていた。
何時間も煮込んだボルシチスープと自家製パン、三元豚のビール煮にこだわりのクリームソースをかけたうまいやつ。今日の主役は間違いなくこのランチメニューだ。
そう思っていたところで店のドアが開いた。
30歳前後の男性と20代後半の女性のカップルがやってきた。
「予約をしていた者ですが・・・」
と言いながら隣の席に座ったふたりはやけに爽やかで、天気のいい休日のお昼、軽快な会話を弾ませるふたりの周りにはふわふわとしたやわらかな空気が漂っていた。
いい感じの休日だ。
そこへスタスタと店員のおばちゃんがやってきた。
そして2人に・・・
「今日は特別なことで使っていただけるということで、ありがとうございます」
と言葉をかけたから、あれ?今のはちょっと、と思ったら案の定、20代女性が「あ、ええ、あの・・・」とオロオロとし始めた。
そこへさらにおばちゃん・・・
「デザートのときに、ね!」
とウインクでもしそうな勢いで女性に言ったものだから、向かいの席の男性も「え?あ、なんかあるの?」と聞いてしまった。
仕方なく女性も観念したように「うん、じつはちょっとお祝いを・・・」と言葉を濁していると・・・
「じゃ、またあとでね」とおばちゃんがトドメを刺すように意味ありげな笑顔で立ち去っていった。
第三者から見てても簡単にわかるほどの見事なサプライズつぶしだ。
あとで知ったところによると彼は仕事で何かの表彰をされたそうだ。
知っててやっているのか知らずにやっているのか、おばちゃんって人種は恐ろしい。
女ってのはいったいいつからおばちゃんになるんだろう。
できれば若いままの形態を維持してほしい。
いや、あれこそが偽りの姿か?
まぁ、いい。まったく世の中、思いもよらぬところに落とし穴がある。
そして今日の主役はランチメニューでも、カップルでもなく、間違いなくこの悪魔のようなおばちゃんだった。