ある日の夜、残業で遅くなってヘトヘトで辿り着いた最寄駅でペコペコになりながらラーメン屋に入った。
もうすっかり夕飯の時間を過ぎていたせいで他に客はいない。
自分の存在を店員に見せつけるようにゆっくりと奥のカウンター席に着いた。
厨房には店長と女子高生らしきバイトがひとり。
若い女性と2人きりで働けるなんて羨ましい。
そんなことを思いながら餃子とラーメン、そしてビールを注文した。
まずはビール、そしてしばらくしてから餃子が出てきた。
そうそう。
この順番がいい。
ビールは餃子をつまみに飲みたい。
正しい順番で出てきたオーダーに満足したものの、女子高生が作った餃子は皮が破れて中の餡がハミ出していた。
なんて破天荒な餃子を作るんだろう・・・。
女子高生の豪快さに驚きながらこれ以上崩れないよう慎重に餃子を食べながらビールを飲んだ。
ところで少し前から気になっていたのがどうも厨房内の空気が悪い。
店長と女子高生がギクシャクとしている。
そして始まった。
「店長、私の話聞いてくださいよ!」女子高生が声を荒げる。
「今じゃないだろ、それ」店長が言う。
まったくだとうなずく自分。
なんで客がいるときにそれを始める?
やるなら誰も客のいなかった少し前だろうに。
それにしてもなんだこの安物のドラマのような展開は・・・。
「だって全然私の話聞いてくれないじゃないですか!」さらに食い下がる女子高生。
「いやだからなんで今それ言うの?」と店長。
そうそう、がんばれ店長!と自分。
女子高生ときたら自分の主張ばかりで空気が読めていない。
客である俺の存在をすっかり忘れている。そして餃子作りが下手だ。
それとも君はその溢れ出る怒りを餃子で表現するために餡を溢れ出せたのか?
だとしたら切にやめてほしいと願う。
なんでこんなに疲れ切った夜にラーメン屋の店長とバイトの口喧嘩を目の前で見せられなくちゃいけないんだ?
うんざりしながらラーメンをすする。
やれやれだ。
そうして最後の麺の何本かを箸ですくいながらそろそろ食べ終わろうとしていたところ突然女子高生に話しかけられた。
「なんだか変なところ見せてしまってすいませんでした」と丁寧に謝罪して頭を下げてきた。
え?いやいや、なにその突然の大人の態度?
そんな言葉遣いができる上に客に謝れるの?
君すごいね、と突然の出来事に驚いたもののよく出来た子だなと感心してしまった。
ところでこの子、実はとてもかわいい。
そしておっさんは可愛い女子高生にはめっぽう弱い。
だから心の中の渦巻く感情とは裏腹に、
「いや全然」
とドキドキしながら一言返すのが精一杯だった。
その急にドラマの中に引きずり込まれてしまったようなフラッシュモブ的な体験。
今はもうそのラーメン屋は潰れてなくなってしまったけれど、下手くそな餃子を食べるたびに思い出す。
それにしても二人の間にいったい何があったんだろう?
恋愛のもつれ?店長かなりのおっさんだったんだけど。
店長は餃子を作るのが上手で、漏れなく恋愛も熱々に仕上げるのが上手とかそんな話なんだろうか。
いや、何書いているのかよくわからない。