船橋駅前のタイ料理屋はガパオライス熟女添え

先週のこと。
仕事で船橋に行った。

駅から出た時にはちょうどお昼。
ランチを求めて南へ延びる通りを歩いた。
すると見た目がいい感じのタイ料理屋を発見。

さっそく入ってみた。

店はビルの三階にあってテーブル席が七席。
タイを意識した内装で雰囲気がいい。
先客が四組来ている混み具合。

ランチメニューの中から、肉のそぼろ的なものと目玉焼き的なものがライスの上に載っているもの・・・つまりはガパオライスを選び、追加でミニトムヤム君を注文した。

ところでタイ料理、自分の中でかなり上位に入る料理。

グリーンカレー君や生春巻君はもちろんトムヤム君なんかが最高にいい味を出してくれるから好きだし、なくてはならない定番だとすら思っている。

特にトムヤム君の酸っぱくて辛い、それでいて甘みもあるという、日本にはない味付けは、日本食の素材を活かした優等生的な料理と違って、不良の味わいとでもいうようなものを感じてしまい、ついつい「トムヤム君ときたらもう・・・」と溜め息を付きながらも嫌いになれない、むしろ好きで仕方がないといった感情を呼び起こされてしまう。

って、え?トムヤムクンの「クン」は「君」じゃない?あぁ・・・トムヤムクンはトムヤムが本名で敬称に君が付いているんだと思っていた・・・。

ウソだけど。

さて、そんなタイ料理。海外に長期で行ってごはんが恋しくなったとき、お米の食事を提供してくれる飲食店として、中国料理屋や韓国料理と同じくらいに重宝している。とてもありがたい。コップンカー。

と書いてふと調べてみたら、タイ語には男性言葉と女性言葉があって「コップンカー」は女性言葉だった。言葉って難しい。

そんなわけで船橋で食べ始めたタイ料理。
美味しいけれどやけに辛い・・・。
そう、からい。

いつも疑問に思うんだけれど、この『辛い』って漢字。どうしてツライとカライを兼ねているんだろう?確かにカラ過ぎるとツラくはなるけれど・・・文字で書くと混乱してしまう。なんとかならないものだろうか・・・。

まぁいい。

いずれにしてもタイ料理がやけに辛くて、水を飲みながらヒィヒィ言っていた(いや、実際に言葉に出しては言っていないけれど、そういう状態になっていた)。

すると、店のレジ辺りにいた、昔はキレイであったろう・・・いやいや今も年齢なりにステキなタイ人の中年女性がこちらをチラリと見て、声を出さずに口だけで『カライデスカ?』と聞いてきた。

だからすかさず・・・

「おお、辛ぇよ!辛ぇに決まってんだろ!わかって出してんだろぉが!ボケかおめぇ!」と、あまりの辛さに理性を失い怒声を浴びせかけたくなったところをジェントルに冷静に自分を抑え・・・

というか辛すぎて言葉を発することすらできないから、仕方なく舌をペロリと出し、そこへ右手で扇いで風を送るという、古いタイプの『辛い』を自分なりに可愛く表現してみせてあげた。

するとその女性・・・
40過ぎと思われる中年女性・・・
真っ青なテカテカ光るドレスを着た女性・・・
体にぴったりと張り付くドレスを身にまとったその女性が・・・

こちらに向かって歩き始めた。
ゆっくりと、そしてしなやかに。

そして目の前まで来て、今度は実際に声に出して「カライデスカ?」と聞いてきたけど、こちらは舌を出したまま“うんうん”と、うなずくことしかできない。

それを見て「よしわかった」とでも言いたげな女性、テーブルの隅に置いてあった酢の蓋を開け、何も言わずにガパオライスの上に何滴かかけた。

え?

と突然の行為に驚きの声が出た・・・。

『勝手に酢をかけた・・・』と思ったものの見守ることしかできない、あまりに突然過ぎた。

さらに女性、スプーンを使って酢が掛かった辺りのごはんを混ぜ始めたから「え、ちょっと・・・」となっているこちらは気にもせず、混ざったライスのひとかたまりをスプーンの上にすくい取り、それをゆっくりとこちらの口元へ運んできた。

え?え?え?

この真っ昼間のレストランという公共の場で、4組の他の客が見ている中で“あ~ん”をしろと・・・?そういうことか?

得体の知れない非現実感に、恥じらいを抱きつつもこの青いドレスを着た中年女性の・・・というか実は少々セクシーな熟女の・・・というかもう熟しすぎてとろけそうなその色っぽい誘いを拒むには少々自分は経験不足で・・・これはもう、って、あ・・ちょ・・あは・・・と気づいたときには『あ~ん』てしてた・・・。

もっと言うなら、餌をねだる小鳥のように貪欲に自分からアゴを突き出し『あーん』てした・・・。

「ドデスカ?カラクナイデスカ?」

とカタコトの日本語で甘く聞かれた時にはなんだか頭がぼんやりとホンワリと溶けていて、首に力が入らないままカックンカックンと頭を二回ほど下げて、それを答えの代わりにした。

熟女のパワー恐るべし・・・。

とその思いに浸る間もなく、次の調味料に手を伸ばす青いドレス。

そして「コッチモイイデスヨ」と、しょっぱくて酸っぱそうな液体をまたも断りなくそぼろごはんにかけている。

そして勝手にスプーンでかき混ぜ・・・

また『あ~ん』てされてる・・・。

こ、拒めない・・・。

なんだこのパワーは・・・。

そうして気付いたときには首の縫い目が取れたぬいぐるみみたいに斜め上を見ながら口をぱっくり開けていた。

あぁ・・・恥ずかしい、けれど少し嬉しい。
他の客が完全にこちらを凝視している。
そんな風に僕を見ないで・・・。

そこへ熟女が「モウカラクナイデショ?」と聞いてくる。

こちらはもう“うんうん”としかうなずくことができない。

ああ、なんだろう・・・。
とにかく熟し方がすごい。

自分の浅い恋愛経験では年下女性としか付き合ったことがなかったけれど、年上の良さというのはこういうことなんだろうか?有無を言わさぬトロミがある。

とろけて熟している。そして濃密な空気をまとっている。濃密すぎて近づいただけで溶かされそうになる。そして有無を言わさぬ力がある。

だから、ガパオライスを口に供給され続けていたけれど、本当はトムヤムクンだけが辛くてガパオライスの方は全然辛くなかったけれど・・・

何も言えなかった・・・。
はぁ辛い・・・。

あ、この「辛い」は「つらい」の方の辛いです。

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