ミルフィーユの薄皮達が一気に脱がされるとき

突然にケーキの話を失礼します。

と、いきなりそんなこと言うくらいなんだからケーキ(景気)のいい話なんだろうな?というツッコミは却下させていただき、話を進めさせていただきます。

さてと実は自分、ケーキがたまらなく好きなものですから、その日もいつものようにミルフィーユとコーヒーを楽しもうとしていました。

いえ実際のところは既に楽しみ始めていました。

池袋にお芝居を見に行った帰りのことで、風の強い、けれど暖かい、そして少々けだるい日曜の午後、いわゆる“今が週末二連休の休み気分の最高潮!という時間帯のことでした。

ミルフィーユは通常、パリパリの薄いパイ皮が何枚も重ねられたもので、そこへフォークをそーっと刺し入れ、少しずつ、さらに少しずつとパイ皮を破りながら、そして削り取りながら、味と同時にそのフォークの進み具合を楽しむ食べ物だと自分、勝手に思っております。はい。違いますか?

それは誰に教えられたことでもなく、例えばベッドの上、女性の服を一枚一枚剥ぎ取っていくことにどうしようもない快感と興奮を覚えてしまうという本能に近いものかも知れませんが、そう考えている自分は今、間違いなく煩悩の塊です・・・。

さて、そんな煩悩にはまだ侵されていなかった夕方少し前、コーヒーを一口二口すすった後、欲望のおもむくままにテーブルの上のミルフィーユにフォークを刺し入れようと試みたのですが、この店のミルフィーユ・・・やけに一番上の皮が固く、そして厚く、とてもじゃないけど破れる気配はなく、なんだか始めての経験に抵抗する生娘(きむすめ)にも似た激しい拒否反応を感じさせるのです。

けれどこちらもひるむことなく、そもそも引くつもりなんてさらさらないものですから、ベッドの上ではジェントルマンの自分を抑えつけ、テーブルの上では野獣と化し、ひと思いにひと振りにさらには人任せに・・・は、しないで自分自身の手で力強くフォークをグサリ!

・・・と刺し込んだつもりだったのですが、なにしろ一番上の皮が「え?いきなり第一ステージからボスキャラ?」と驚きを口にするくらいに固いものですから、ミルフィーユはそのボスキャラに押し潰される形で上から下までグシャリ・・・とその形を崩すことになってしまいました。

それはたしかこんな感じだったと思います。
というかこれ自身です。

その見た目はまるで中間管理職が上からの命令と下からの突き上げに板挟みになって潰されるサラリーマン世界の悲哀のようで、とてもじゃないけれど見ていられない。まるで自分みたいだ。

・・・と会社のことを考えた瞬間から休み気分は吹き飛び、頂上から一気に雪山を滑り降りるように憂鬱な気分に落ちていきました。

そうやって「ふふふ、世の中そんなに甘くないんだよ」と、こいつにだけは言われたくない甘い甘いケーキに教えられたかのようで、今度はコーヒーのようにほろ苦い気持ちになってしまったのでした。

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