出張に行くと、とりあえずコンビニでヒゲソリを買う。
一本100円程のものだけれど、これがなかなか良い。
「ホテルにだってヒゲソリはあるじゃないか?」と言われそうな話だけれど、ホテルのヒゲソリを使うともれなくカミソリ負けをするから使いたくない。
弱りきった中年の肌を容赦なく傷つけてくる彼らはこの世に生きる上での永遠の天敵だ。
それに比べてコンビニのヒゲソリは肌を傷つけることなく滑らかに剃ってくれるから慈悲に溢れている。
こちらはこの世界での数少ない僕の味方だ。
勝ち負けにこだわる訳じゃないけれど、望んでもいない勝負でいつのまにか負けているのはなんとも悔しい。
カミソリ負け恐るべし。
そもそもヒゲソリ負けじゃないところもよくわからなくて恐るべし。
ところでカミソリ負けという言葉がどうにも気になる。
というのもカミソリに負けたのはこちらの肌であって、カミソリは勝っている。
つまり勝利者のはずなのになぜか負けを言い渡されて敗北者にされている。
だから本当は『カミソリ負け』じゃなく『カミソリ勝ち』じゃないんだろうか。
更にいうと『カミソリ勝ちの人間負け』じゃないんだろうか。
いやいや、カミソリの分際で人間様に勝つだなんて不届きな野郎だ。
なんとも腹が立ってくる。
けれどそんなことで切れやしない。
よく切れるのはヒゲソリだけでいい。