桜の散るころに

先々週の金曜日。

その日までしばらく、わーしゃ(我が社)の社長と海外出張に行くというありがたい任務をこなしていたので激しく日本の桜に飢えていた自分。

桜が見たいな見たいし花見したいなとウズウズしながら夕方、知り合い女子に「久しぶりに飲もうか?」と連絡し、桜が見られる街で待ち合わせをした。

駅で会った彼女は何年ぶりかの再会にも関わらず最近失恋したんだという話を早口でまくし立て、怒涛の勢いで「あたしは悲しいんだ!悔しいんだ!」という感情を訴えかけ始めた。

その思いの強さにこのまま選挙に出たら簡単に当選できるんじゃないだろうかとぼんやりと思ったし、ああ、これはきっと今夜この子と男女の関係になるなんてことはないだろうなとも思った。

いや、そもそもおっさんである自分がそういったことをうら若き女子との間に期待しちゃいけない。

とりあえず駅近くのお店でビールをいっぱいたしなみ、それから桜が見られる川沿いへと移動した。

本当であれば桜の下でお酒を飲みたかったものの、その街ではそんな行為は認められていない小洒落た街で、仕方がないのでほろ酔いで歩きながらの花見にいそしんだ。

夜桜はキレイでまだまだ咲き誇っていてくれたものだから、その姿にうっとりとしながら写真を撮り、とりあえずの欲求を満たした。

その後改めて居酒屋に行っても彼女の失恋話は止まらず、その重苦しい思いと何杯かのお酒でお腹いっぱいになって店を出たものの「そんな気付け薬程度のアルコールではこの失恋の痛みが癒やされることはないのだよ」といったような話をしながら「カラオケが歌いたい!」と宣言したから、じゃあまぁ、飲みながら歌おうかと、駅近くにスナックを見つけてふらりと入った。

スナックにはイケメンなバーテンダーがひとりとイケメンな客がひとりいて、とりあえず二人に話しかけて会話を楽しんだのはそれがスナックの作法だと思っているからに他ならない。間違っていたらすいません。

そしてカラオケ。

僕はといえばどれだけ声が出せるのかを確認するためだけに歌っていたし、彼女は思いのたけをすべて吐き出すように叫んでいた。

つまり他の客には迷惑な騒音野郎達と化していた。

しばらくして「バーテンダーにも歌ってほしい」と連れの失恋女性がせがむとそれに応じて歌った彼がやけに上手い。なんなら客のイケメン男性も歌い始めて彼もすこぶる上手い。

なんだこの店は?と驚きながら興奮していたところに新しい客が二人やってきた。

やけに隅っこの暗がりに座るなと、壁にもたれたそのうちのひとりを見るとお笑い芸人ハライチの岩井氏だった。

好きな芸人なので話しかけてみると快く応じてくれたから短い会話を楽しみ、連れの方はマネージャーですか?と聞くとフジテレビのアナウンサーだとのことだった。

後日ハライチのラジオを聞いてみると、二人はその日シルクドソレイユを一緒に見に行っていたそうなので、その帰りなんだろう。たしか三軒目ですと言っていた。

そしてこの二人・・・

カラオケを歌い始めたところ、どちらもすこぶる上手い。

なんなのこの店、すごいな、と自分も彼らが歌う曲に勝手に混ざって歌った。それが楽しくて楽しくて、ああ、幸せだなぁという思いが結局今回のこの件を書いている動機になる。

そうこうするうちに夜中の0時を過ぎたから帰らなければ、と知人失恋女性を促すと「おまえんちに行ってやってもいい。けれど絶対に手を出すなよ」というようなことを泥酔しながら伝えてきたから一緒に家に帰ることになった。

そういえば何故か一発強めにグーで殴られたけれど、あれはいったいなんだったんだろう。
その後頬が痛くて仕方がなかった。

正直この子、少々アタオカだから時々こういうことをしてくるけれどやめてほしい。

それにしても、ああ、思わぬ展開になった。
久しぶりに女子を家に連れ帰る。

さてとどうしたものか・・・。

そもそも「手を出すなよ」の言葉はフリなんだろうか。

などと考えながらシャワーを浴びたあとに部屋のソファに並んで寝転び、プロジェクターで映し出した映画だかアニメだかを見ているうちに眠ってしまい、健やかなる朝を迎えていた。

そして歯医者へ行く予定があったので、昼頃には駅まで送り届けた。

先程も書いたけれど、これはスナックでハライチ岩井氏と飲めたことがすこぶる楽しかったという話であって特に他にはなにもない。

桜散るとか桜咲くとか、そういった話でもない。
もちろん負け惜しみなんかでもない。

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