あの日、上げ忘れた日記

仕事を終えて最寄駅にたどり着いた昨日。

会社に置いていた不要な備品を持ち帰ったせいでやけに荷物が多く、普段は使わないホームから改札に降りるエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターには自分よりも年配の、いわゆるベテランのおじさんが先に乗っていて、新米のおじさんである自分はどこか居心地の悪さを感じていた。

そんな弱者が醸し出す空気を察したのか、もしくはこの超高齢化社会の腐った日本では確固たる年功序列が存在すると信じて疑わないのか、ベテランのおじさんはまるでそこが我が家のお風呂場でもあるかのように鼻歌を歌い始めた。

ふふんふんふん♪

なんだその知らない曲は・・・。

さんざん世の中に迷惑をかけてきた自分だけれど、むしろそうだからこそ真っ当ななサラリーマンとして手足を縛られ好きなことも言えない生活を強いられている今、世の中に迷惑をかける連中を見るとどうしようもなく我慢ができない体質になっている。

電車の中でマスクを付けていないバカ。

電車の中でリュックを背負うバカ。
電車の中で足を組んでるバカ。
電車に乗っているバカ。
電車のバカ。
 

そしてエレベーターで鼻歌を歌うバカ。

けれどちょっと待てよ。

もしかしたらこのベテラン、余程幸せなことでもあったのかもしれない。だから自然と鼻歌が流れ出ただけなのかもしれない。そういえば昨日はクリスマス・イブ、今日はクリスマスだ。

鼻歌を歌うことにはなんの罪もない。
もちろん鼻歌自身にも罪はない。

だから考える間もなくこちらも即座に行動に出ていた。

鼻歌を歌ってあげた。

もちろん全然違う曲で。

なにが『もちろん』なのかはわからないけれど、とにかくそうしていた。

その曲がよっぽど良かったのか聞き入ってしまったのか、ベテランのおじさんはせっかくの鼻歌をやめてしまった。やめてしまった上にエレベーターが目的階にたどり着き、ドアが開き切る前からさっさと外に出て歩き去ってしまっていた。

ねぇ、おじさん・・・僕にもいいことがあったんだよ。

今年のクリスマスはもう家族持ちの友人宅で過ごしたんだ。先週の日曜日にね。少し早いクリスマスだったけれどそれはとても温かったんだよ。

だから今年はクリスマスイブもクリスマスの日も、誰かを羨んだり、誰かを妬んだり、誰かを僻んだり、誰かを恨んだり、誰かを憎んだりしなくてもいいんだよ。

それでも今日、ついつい駅前の居酒屋にひとりで来たのはやっぱり少しはイベント気分を味わいたいと思ったせいなのかもしれないけどね。

けれど想像と違って店内はガラガラだよ。それでもクリスマスソングが流れる店内の雰囲気は嫌いじゃないよ。だからねぇおじさん。

僕はきっと帰り道にはクリスマスソングを鼻歌で歌いながら夜道を歩くんだ。

メリークリスマス。

僕はもう、こんな時間なのにベロベロだよ。
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