人間のクズを作った掃除機

どうも昔から父とは折り合いが悪い。

子供の頃、父と兄がキャッチボールをする横で自分はひとりサッカーボールを蹴っていた。

食卓では父の機嫌を損ねることを恐れ、あまり話さないようにしていた。二人きりになると話題もなく、言葉に詰まり、決まって気まずい空気が流れた。

結局、大学を卒業するまで父とはまともに口を聞いたことがなかった。ただよく怒鳴られはした。

友人達を部屋に連れ込み毎晩騒いでいた高校のある時、いつもは怒鳴り散らす父が怒りを抑えた静かな声でこう言った・・・

「おまえは人間のクズだな」と。

なるほど。
そりゃどうも。

ドラマで聞いたようなセリフだったけれど、まさか実世界で実際に実の父からそんな言葉を言われるとは思わなかった。けれど、まぁいいやと思った。

ただ一応ひと言だけいっておくと、そのクズを作ったのはあなただ。まぁ大切な自分の友人達をクズ呼ばわりしなかったことだけは上出来だと思う。褒めてあげようか?

そう、クズは自分一人で十分だ。

それにしても彼が見ている価値観の中では、自分という人間は“役立たず選手権”の世界チャンピオンにでも見えるらしい。まったくもって光栄なことだ。

まぁ実際のところ自分なんて世の中になんの貢献もしてなければ誰の役にも立っていないんだから仕方がないと言えば仕方がない。

・・・と、そんなひねくれた感情を持っていたのも大学を卒業するまでのこと。社会に出れば社会人の先輩である父の苦労はなんとなくだけれどわかるようになった。そして実際のところ自分は役立たずのクズだったってことはそれ以上によくわかった。

そして時は過ぎた。
世の中は変わり、
父も変わった。

少し前に実家に帰った時のこと。

帰宅したことを知らせるために玄関のブザーを鳴らし、けれど鍵は持っているので自分で扉を開けて家に入った。

すると・・・

「おかえり~」と笑顔で迎える父と母。

ちなみにこれがここ最近のいつもの光景だ。
つまり最近の親子関係は別に悪くはない。

けれど、ん?

ふと父の足元を見るとなんだか見慣れないモノが目に止まった。

モップ付きのスリッパ・・・。

え・・・ちょ、なにそれ?
なに履いてんの?

と思って、実際「なにそれ?」と言葉に出して聞いてみた。

すると父・・・

「母さんから『あんたは役立たずなんだから少しは役に立ちなさいよ』って言われて履かされてるんだ・・・」と小さな声で答えた。

はぁ、そうですか・・・。
知らぬ間に父は掃除機と化していた。

少々恥ずかしそうに、けれど少しは役に立ててうれしいのか、照れたような笑顔で答える定年後の父の姿がそこにあった。

なるほど。

どういった形であろうとなにかの役に立とうとしているということか・・・。

まぁいいんじゃないの?そんなのも。

少なくとも人のことをクズ呼ばわりし、役立たずと決めつけるよりはよっぽどいい。

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