ある日、会社に段ボール箱でお中元の品が送られてきた。
箱の中をのぞくと6個のパイナップルが膝をかかえて行儀良く整列しながら座っていた。どうもパイナップルもソーシャルディスタンスを守るようになったらしい。
ふむふむ。
かわいい奴らだ。
食べてしまいたい。
と思ったものの、6個もあれば独り占めなんかはできやしない。ましてや会社に届いた時点で欲深い他の社員達にも見られてしまっている。
というかそもそも、ひとりそんなに食べられやしないし、食べたくもない。社内でお裾分けしようと周囲の社員に声をかけてみた。
ところがパイナップル・・・
なぜだか人気がない。
どうしてなんだろう?
不思議で仕方がない。
渋い表情を崩さない固い皮に、とがったヘアスタイルの葉っぱ、イケてる若者風に見えるのにダメなんだろうか?
イケメン好きであろう女子にあげようとすると「あ・・・いえ、結構ですぅ・・・」と尻すぼみの返事を返してくるし、男子にあげようとすれば「いえ、パイナップルはいいです・・・」とパイナップル限定でダメ出しをしてくる。
いったいパイナップルが何をしたっていうんだ!?
ついつい声を荒げたくなる。
ようやく受け取った後輩に至っては「パイナップルですか・・・うーん、けど、じゃあまぁ・・・」と、まるで頼まれたから仕方なくもらってやったというような雰囲気を醸し出してくる始末。
いったいこの世の中で何が起こっているんだ・・・。
意味がわからない。まったくもってかわいそうなパイナップル達・・・。大丈夫だよ。君達は決して嫌われ者なんかじゃないんだから。
と慰めの言葉でもかけてやりたいと思っているところに後輩がさらに・・・
「ってゆーか、マンゴーはないんですか?お客さんに今度はマンゴーにして下さいって言って下さいよ」
と客の好意を踏みにじるような身も蓋もないことを言ってくる。
なんて奴だ・・・。
そんなこと言えるわけが無い。
それじゃパイナップル達の立場が無いじゃないか。
こんな話とてもじゃないけど彼らには聞かせられない。
そう思いながらチラリとトゲトゲ頭の方を見ると、心ない後輩の言葉が聞こえてしまったのか、どこか身を固くしている様子。
というか単にまだ熟していないというだけか・・・固そうだ。
まぁいい。
と一旦パイナップルのことは忘れて仕事を再開した。
すると・・・
10分もしないうちにさらにお中元が届いた。
また段ボールだ。
開いてみると・・・
マンゴー!!
うひょー!!
え、なにこれ?
なんの奇跡が起こってる?
魔法のランプとかこすったっけ?
股間くらいしかこすった覚えないんだけど・・・。
いやなんでもない。
気を取り直して、先ほどマンゴーを希望していた図々しい後輩に早速マンゴーを見せてみた。
すると「え?ま、まじすか?マンゴー早速頼んだんですか?」と期待通りの驚きと興奮が交じった反応をするもんだから・・・
「まあね。速達で送らせた」
と、そんなわけがないのに、つい根も葉もないウソをつきながら、根のないパイナップルの横に根も葉もないマンゴーを並べて彼の机の上に置いた。
さらにマンゴーを持って社内をウロウロしてみると、今度はやけに売れ行きがいい。
そりゃそうだ。
なにしろマンゴーだ。
やっぱりパイナップルとは格が違う。
って、いやいや、こんなことパイナップル達には聞かせられない・・・。
いずれにしても、そんな感じでパイナップルとマンゴーを社内で配り、自分が持ち帰ることができたのはパイナップル1個とマンゴー2個だった。
けれど、それでも十分、そして大満足。
家に帰って大切に味わって食べてやろうと思っていた。
そうして家に着くと、玄関横のポストに宅配便の不在通知が差し込まれているのを発見した。
なんだろう?
と通知を見ると・・・
“マンゴー”と書かれていたから、
うわ、なにこれ!?マンゴーバブルキターーーーーー(・∀・)!!!
と歓喜したのもつかの間・・・マンゴーのありがたみがすっかり薄れてしまい、部屋に入ってすぐにマンゴー1個を手に取り、乱暴に、さらにはむさぼるように、荒々しく食べてしまったのは、すっかり慣れてしまった恋人を少々雑に抱いてしまう男の性みたいなものなんだろうか?
家に帰る前に優しくかけた「大事に食べるからね」・・・という言葉に込めた思いはどこかに行ってしまっていた。結局、男はいつだってその場限りのウソをつく。
そうやって、ついつい男女の秘め事に絡めて書いてしまうのは、“マンゴー”という言葉の危うさと、台所どころか、1Kのアパート中を南国気分に満たしてしまったパイナップルの強烈な甘いニオイのせいなのかもしれない。
「ねぇ、どう思う?」
と当の本人であるパイナップルに尋ねたとしたら、「うーん、わからないよ」とでも言うように頭の上のトゲトゲの葉をぷるぷるとさせるのだろうか。