涙を繊維に染み込ませたワケ

例えば・・・

それを手に取り、今から搾らなくちゃいけないというカットレモンがサラダにかけられたドレッシングの中にどっぷりと浸かっていたせいで、僕はとても憂鬱な気分になってしまったのだけれど

この作品の主人公が抱えた目の前に立ちふさがる巨大な問題に比べればそれはあまりに小さく、取るに足らない出来事にすぎないんだと安易に自分に言い聞かせることができたりだとか

楽しみにしていたカキフライは本来カリカリに揚がっているべきなのに同じ皿に乗せられたサラダドレッシングのせいですっかり裏側が濡れてしまっていて、フライはもうドライではなく未来すら見えないくらい絶望的に暗い気分になってしまったのだけれど

そんなことは、それ以上の絶望を味わったはずの主人公であるところの彼が、一筋の希望に賭けて、ただひたすらにひたひたと地べたすら這うように生きていく姿を見せつけてくれたことで、ほんの些細なことでしかなくなってしまったことだとか

そんなこんなの今日のお昼、自分に起きた小さな悲劇とそこからの脱出を果たしたことを語ることでこの作品の素晴らしさを表そうとしたのだけれどそれはとても難しくて

もう諦めちゃおうかな?とか思いつつ

けれど、この作品を読み終えたときに僕が流した涙は今だかつてないほどに大量で、どうしようもなくこぼれ落ちるしょっぱめの液体は、その1ページ1ページを構成する紙の原料である繊維に静かに染み込んでいき

それはもう期待していたカキフライを希望通りの美味しさで食べられなかったことくらいのことはすっかり丸ごと忘れてしまうくらいで

だから身体中の血液が沸騰してるんじゃないかってくらいに体温が跳ね上がり、喉の奥から熱い息があとからあとから出てきて叫び出したいくらいだったり走り出したいくらいだったり、それほど激しく感動したんだってことは伝えなくちゃいけないな、いや伝えたいなと思い、ここにこうして好き勝手書いたのだけれど

なんだか単なる独りよがりでしかなく

けれどとにかくとてもとてーもとてつもなくも泣けたんだこの作品は最高だったんだ機会があれば絶対に読んで欲しいんだけれどちょっと内容は重いよ?という相反するようなことをどうしても伝えたかったんだ伝えようと思ったんだだから伝えようと努力してみた。

大好きな作品『雪の鉄樹』。

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