アルコール消毒液が日常の中ですっかり当たり前になった。
おかげで職場であったりお店であったり、家に帰ってきたときにも、ぷしっぷしっとアルコールの液体を両手に吹き掛け、もみもみ・・・もみもみ・・・と、まるでどこかの中間管理職が部長辺りに擦り寄る時のように今日も両手をこねくり回している。
そんな格好の悪い中間管理職にはなりたくないと激しく嫌悪感を抱いていたはずなのに、いつの間にやら自分も中間管理職になっていた。
けれど、もみもみと“もみ手”をしないせいですっかり部長辺りに嫌われてしまっている。「申し訳ありませんが部長、自分の手が何かをもむとしたら、それはおっぱいでしかありえません」とは言わないけれど、なんにしても一回切りの人生、生き方が難しすぎる。誰か僕に攻略本をください。
さてと先日・・・
最近では珍しくなったドーナツ屋“ダンキンドーナツ”を見つけたものだから、「ああ、懐かしい」と引き寄せられてふらっと立ち寄り、ドーナツとアイスコーヒーを購入して席についた。
たまに自分は飢えた蟻のように甘い物が欲しくなる。
いわゆる甘いものマニアではあるけれど、甘い言葉を女性に言うのは照れてしまってできないからマニアを名乗るにはまだ早いのかもしれない。おかげで今でも独り者なんだから女性に交わることのない単なる働き蟻ってところだろうか。
って、なんだこの悲しい独白は・・・。
どうでもいい話だ。
どうでもよくないのは最近カロリーを取り過ぎているということで、中年になってのカロリーの過剰摂食は即座に肥満につながるから気をつけなくちゃいけない。
だからアイスコーヒーにシロップは入れないし、ミルクはほんの少し、味を変える程度にしか入れない。
「その量なら入れなくてもいいじゃん」と言われそうなくらいの少量だけれど、そこは中年ならではの小さなこだわり、入れないと我慢できない。こういうどうでもいいこだわりがあるから独り者なんだろうか・・・。
いやいや、その話にはこだわらなくていい。
そんなわけでこの日もささやかな量のミルクをアイスコーヒーに入れようと思い、小さなプラチック容器に入ったミルク(本当はただの油脂なんだけど)を求めて席を立った。
そうしてこの手の店にはお馴染みの、上の部分が小物置きのようになっているゴミ箱に向かうと、期待通りにミルクを発見し、そしてそこに置かれたアルコール消毒液の存在に気付いた。
そうそう、消毒消毒。
今の時代これが何よりも大切。
そう思いながら半透明な容器の頭の部分をぷしっぷしっと二回押し、出て来た液体を手のひらのシワの奥の奥まで行き渡らせるような気持ちで、もみもみ・・もみもみ・・・
とやるけどなかなか乾かない。
むしろトロリとしている。
ああ、ゼリータイプか、正直このタイプは好きじゃないんだよな・・・と思いながらも、さらにもみもみ、そしてもみもみ・・・
そうやって部長に媚びを売る練習をするように丁寧に揉みしだくことしばし。
まったく乾く様子がない。
ゼリータイプにしてもしつこすぎる。
そこで液体の入った容器を見てようやく気付いた。
それがアルコール消毒液じゃなくガムシロップだったってことに・・・。
にっちょりとなった両手をぼんやりと見ながら、
動くこともできずに静かに絶望した。
誰か僕にダンキンドーナツの攻略本をください。