朝・・・
洗濯物を干そうとベランダに出ると小さなハチの巣ができていた。
あれ?いつの間に・・・。
ツバメが巣を作った家には幸せが訪れるというけれど、じゃあハチの巣の場合はどうなんだろう?少しは幸せにしてくれるんだろうか?
そんなことを考えながら顔を近づけてみるとまさに巣を作っている真っ最中。五匹のハチ達がお尻をフリフリ振りながら壁をペタペタと固めていた。
けれど時々、ジッと動かなくなるのは休憩中なんだろか?それともこちらの様子をうかがっているのだろうか?え?もしかして警戒している?
いやいや敵じゃないから。
大丈夫だから。
ね?
とさらにジッと見てみる。
・・・と彼らの一匹と目が合った。
すると彼、つまりはその蜂が・・・
「旦那ぁ、あっしらなんぞ見てても楽しいことなんざありゃしませんぜ?」とやけに“べらんめぇ”な調子で言ってきた。
へぇ驚いた。
最近のハチは言葉が話せる上に気遣いなんかもできるんだ。
だから敬意を表して・・・
「いやいや、いいのいいの。楽しいかどうかは自分で決めるからさ。気にしないで作業を続けてよ」とどこかのファーブルにでもなった気分で答える。
すると彼・・・
「なんだって?旦那ぁ、作業を続けろだって?冗談じゃねぇですぜ。もうそろそろ終わろうとしていたところでさぁ。あっしら朝から晩までそりゃもう馬車馬のように働かされてもうクタクタなんでさぁ。なにしろあっしらの女王様ときたら手加減なんて言葉知りゃあしない。そりゃもうあっしらを社畜のようにこき使うだけなんでさぁ。少しは休ませてくだせぇよ」
とハチのくせに自分を馬に例えたりして愚痴ってくる。
それに社畜ってどういうことだ?
ハチの巣って会社組織なのか?
さらには・・・
「そりゃね、旦那達はそこいらの夜の女王様とイケない遊びをされることだってあるでしょうよ。けれどあっしらのは遊びじゃないんでさ。女王様との絡みには生活がかかってんでさぁ。働きが悪けりゃボーナスだって減らされる。その上それを知られりゃ女房にだって叱られる。ハチの女王様のプレイに手加減はないんでさぁ。それこそ泣きっ面にハチってやつでさぁ」
とハチのくせによくわからない例えでまくし立ててくるから・・・
「いやいや俺だって同じだよ?ボーナスだってズズメの涙ほどしかないよ。まったく世知辛い世の中になったもんだよ」
と、こちらも動物名を入れて返してみる。
それと言っておくけれど、自分、女王様と遊んだことなんて一度もない。
すると・・・
「じゃあお互い様ってぇことですかねぇ、へへへ」
と言ってくるから・・・
「ん~まぁそうかもね」
と、そうじゃないとは思いながらも曖昧に同意して、朝から誰かと何かに対して共感できたことに心地よさを味わいながらベランダを離れた。
なるほどね。
ハチとだって仲良くなれるんだ、あはは。
と満足しながら、すぐにアパートの管理会社にハチの巣の除去を依頼する電話をかけた。
それが今年の初夢だった。
・・・なんてことはなく、ただの事実と妄想の入り交じった話。
今年もよろしくお願いします。