何十回目かの誕生日を迎えた自分はすっかり年老いてしまったことを感じている。
それでも何かに抗うようにひとりで箱根の温泉宿に泊まってその日を迎えたのは、いつかの『こどもちゃれんじ』に敗れたことに対しての自分なりの『大人リベンジ』なのかもしれない。
箱根ではまだまだ桜が見頃で、かつて文豪達がこの地で創作に励んでいたというけれど、それが今の時期であったなら夏目漱石はきっと『I love you』を『桜がキレイですね』と訳してしまったに違いない。
「ああ、それにしても本当に桜がキレイだ。桜がキレイですね、ねぇお姉さん。お姉さんたらお姉さん?」と隣の女性達についつい話しかけたくなる。
そういえば先日『大人の鉄板』という品を買った。
「大人の鉄板は厚さが4.6mmあるから均一にじっくりと食材に火を通すことができて、ステーキなんかはお店の様に美味しく焼けちゃうよ、キャハ!」
・・・的な触れ込みがやけに心に響いたから、占いに騙されてしまう乙女のように簡単にメーカーの言葉に乗せられ大枚をはたいた(一瞬「タイ米は歯痛い」という言葉が頭をよぎった)。
ちなみにステーキはとても上手に焼けてすこぶる美味なるものでありんした。
それにしても最近よく見かける『大人の』と付けさえすればちょっと小洒落て高級に見えるだろうというような安易なネーミングが好きくない。好きく...ない。変な日本語(けれど昔の彼女が使っていた気がする)。
世にこれだけ多くの『大人の』が溢れてしまうとその先駆者である『大人のおもちゃ』の立場がないじゃないか!つい叫びたくなる。
ったく、やれやれだ。
その辺りは大人の事情を察して大人の対応をしてほしい。
つまりなんだかんだで最近の自分は『大人のたしなみ』としての『大人の鉄板』で『大人のステーキ』を焼き、『大人の週末』をひとり箱根で大人しく過ごしていたというわけだ。
そして今日、またひとつ大人になったという話。
吾輩はおっさんである。