先週、神戸・大阪と一泊二日で出張をしてきた。
一日目の夜、客先訪問を終えて、ホテルで報告書も書き上げて、さてと夜の食事をどうしようかと部下のKくんと相談。
三ノ宮での宿泊だったから南京町もあるけれど、高架下に並ぶお店も活気があっていいね、と餃子専門店に入った。
部下のKくん、入社した当初「僕、お酒飲めないんです」と言うから今の時代なにかとややこしいので無理にお酒を勧めることはしなかった。
ところが海外出張で夜のお店に行くと「楽しいですね!僕も飲みたいです!」と自ら志願して焼酎を飲み始めたから「いやいやちょっと待て!飲めないんじゃないのか!?」と聞くと「二十歳(はたち)くらいのときは飲めなかったんです」という回答をした只今絶賛28歳。
なんて男だ・・・。
彼は若い頃に少し試してお酒が飲めなかったというだけで、それから10年近く頑なに自分はお酒を飲めないものだと信じ込んでいたというのだ。
思い込みの激しい奴・・・。
ちなみにご両親は飲めるの?と聞くと「はい、二人とも飲めます」と目をキラキラさせながら言うから「いやそれ君、絶対飲めるから」と静かにツッコミを入れてあげた。
そんな訳で神戸の餃子屋でもビールを頼み二人で餃子を摘みながら上司と部下の適度な距離感で酒を飲んだ。
そうしていい気分になって二軒目に行こうかと外に出るとまるで行く道を遮るかのような結構な雨。
雨は冷たいけれど濡れていたいの・・・
なんてことはまったく思えない、まだまだホロ酔い状態なものだから、神戸に住む従兄弟にLINEで「いい店ない?」とSOSをして最短距離での正解を求めてみた。
するとすぐに返事があり「立ち飲み屋の『乙女の台所』がいいよ」となんともステキな名前を告げて来たからウキウキで冷たい雨に濡れながらお店に向かった。
お店に入ると唯一のテーブル席に案内されて、さて何を飲みますか?と店員の女性がやってきたからビールを頼んだ。
お店にはこの注文を取りに来た若くて可愛い子と、もうひとりやっぱり若くて可愛い子、そしてママがいる。どうも自分がよく知る立ち飲み屋とは少々違うようだ。
違うどころか店員女性はキャバクラ嬢のように横に立って接待を始めてくれた。そしてなんとか場の空気を盛り上げようと頑張ってくれている。
ああ、いじらしい。
と心を打たれたから「なにか飲む?」と試しに聞いてみると「じゃあ芋焼酎いただきます!」と強めの選択をしてきたから驚かされた。
ふむふむ、これは可愛い顔して結構な酒好きらしい、と嬉しくなったり楽しくなったり、しばらくしてもう一人の女の子も来てくれたから「何か飲む?」と聞くと、こちらは梅酒を頼んだから、ふむふむ、女子としての正しい選択だ、と結局やっぱり嬉しくなった。
そうして他にも客がいる中、自分達の席だけが盛り上がっていたから周りにとっては気分のいいはずもなく、そんな様子を見たママがカウンターの奥から重い腰を上げてノシノシとこちらにやって来た。
客の全員が楽しく飲めるように店内を調整するのがママの仕事だ。これは何かあるなと覚悟した。
近づいてくるなり「あらあら、お二人は出張かなにかで来られたの?」と掛けてきた言葉に「あんたら地元民じゃないんだろ?でかい顔すんじゃないよ」という意味を含めて投げかけてきた(と勝手に思っている)。年齢は50歳くらいだろうか。
店内はそれほど広くないから必然的に人と人との距離が近い。
だからいつの間にやらママとの距離は頭突きをすれば簡単に当たりそうな所まで接近していて、ああ、これは近いなと思ったところで目と目が合って、酔っ払った勢いからお互いの顔が近づくなり・・・
『チュッ』とチュウをしていた。
いやいやなんだこれ。
どういう流れだ。
と誰もが思っただろう中、まぁ、ノリだからといった感じで全てを水に流していた。そう、なにしろ外は大雨だ。
酔っていて定かではないけれど「あら柔らかい唇してるのね」などと言われた気がするし、それをママがお気に召したのか結局三回ほどチュウをしていた(舌は入れていません)。
いやマジなんでやねん・・・。
即席のにわか関西弁も出るってものだ。
そもそも厨房に立っているのはママだから、店名の『乙女の台所』からするとママが乙女ということか。だとしたら初対面からチュウなどをして、乙女にしては恥じらいがないぞママ!!乙女失格だ!!!
なんてことは思いもせず、その後も店内は盛り上がり、ただただステキな夜を楽しく過ごすことができた。
そんなことがあったものだから部下のKくんも、「いやぁ、初めて来ましたけど立ち飲み屋って楽しいですねー!」と東京に帰ったらそこら中の立ち飲み屋に行く気満々の様子を見せていたけれど、いやいや、こんなこと滅多にないからね?
けれどいい経験できてよかったね。
という出張の話。
■乙女の台所