お願いがひとつ、神様。

B!

今日は会社の後輩が職場で「よくそこまで言えるな...」というくらいの暴言で攻め立ててきたせいで一日中気分が悪く、やってられるかという思いで定時後さっさと会社を後にした。

いつものようにAirPodsを耳に着け、静寂の中に深く沈み込みながらラジオを聞く。そして電車に揺られた。

そういえば今日は阿佐ヶ谷を舞台にした阿佐ヶ谷の住人達が出演する映画が阿佐ヶ谷のミニシアターでやっているはずだなと映画館に向かうと既に道路に人が溢れていた。


うわっ、予想に反して流行ってる...

チケット売り場に並んだものの「これ、買えるのか?」と気になって黄色いTシャツが目立つ30代半ばのフリーター(想像)に話しかけてみるとそもそも予約がないと買えないと言われたから渋々と列から離れることになった。

今日の俺はついてない。

仕方がない帰ろうと思っていたところ「あのぉ」と女性が声をかけてきた。

友人が来れなくなってチケットが余っているんです、という事情を説明してきたから話が終わるのも待たずに「そのチケット買います!」と言葉を被せた。

映画が始まると舞台はすべて勝手知ったる阿佐ヶ谷の街。

そしてそもそもこの映画のことを知るきっかけになった飲み屋のママや、カウンター席に座っていた渋い白髪中年も映画に出ていた。

それどころか上映前に話しかけた黄色いTシャツのフリーター(仮俳優)まで映画に出ていたから「やだ!何これ目が離せない‼」となっていた。

そもそもストーリーがなかなかおもしろい。

上映時間の95分があっという間に過ぎ、物語は二転三転、そしてネタバレ禁止ですよと事前に伝えられていた内容で終わりを迎えた。

ふむふむ、なるほど。
そして皆が拍手。

映画館を出ようとしたところで中年女性から「あ、どうもー」と声を掛けられ、え?いや?誰?と思っていたら「ほら『青月』の... 」とお店の名前を出されて思い出した。先週、先々週と立て続けに行った飲み屋の店員だ。

ああ、どうもどうもと話しながら外に出ると雨。

やっぱりついてない。

これは早いところ帰らないと濡れてしまうな、と青月の店員に「また行きます!」と声を掛けて駅前へと走った。

夕飯を取るためと雨宿りついでに駅前の魚のうまい店に駆け込んだ。ホッケ定食の注文を告げると「それは品切れだよ」と素っ気なく言われたあとに「ウチはサバがうまいんだよ、一番人気さ」と今度は人懐っこく親父さんが勧めてきたからそれにした。

店の外に降る雨を気にしながら、そして止んでくれないかと期待しながら食事をしていたものの、どうやら止む気配はない。

やれやれ、と食事を終えて帰るところで「傘持ってないの?」と店員の女性から聞かれ「ないんです。そして今日の僕のスーツは新品です」と胸を張って告げると「じゃあ、あそこの傘持っていきなよ、誰かが忘れていったやつだから」となって傘を頂くことになった。

そういえば映画を観終わってからここまでAirPodsを着け忘れたままでいたけれど、そのせいなのか今日はやけに人から話しかけられる気がする。

いや、関係ないか。

けれどそれも悪くないかな、なんて思いながら傘を軽く回しながら家へと向かった。

それで終わっていれば気持ちよく帰れたものの、途中「雨止んでますよ、雨やんでますよー」とアーケードの下に入ったところで酔っ払いの若者が声を掛けてきた。

そういえばアーケードの下なのに傘を刺していた。

「ああ、屋根があるからね」と彼に伝えると「そう、止んでますよー」と言ってくる。その場を去ったものの言い方がちょっと癇に障る。そしてそれが昼間の会社の出来事を思い出させた。

ったくイライラする。

「やれやれ、まったく」とポケットに入れていたAirPodsを耳に着け、また深い静寂の中へと入っていった。

そして部屋にはまた傘が増えた。

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