言うなればそこはハワイ

B!

いつかの正月。

実家に帰省するとなぜだか父はやけにはしゃいでいた。
それはもう久しぶりの訪問客にはしゃぐ子供のように。

こちらが本を読んでいるのにそんなことお構い無しに話しかけてきたり、母や兄と話しているのにそんなこと無視して全然違う話題で割り込んできたり。

それはそれはもう大変な迷惑っぷりだった。
けれど、たぶんこの血を自分も強く引いている・・・悲しい。

そんな父が、テレビを見ながらおせち料理を食べている自分に訴えかけてきた。

「マウイ~マウイ~」

なんですか父さん?
そのマウイマウイって?
そしていったいなんですか?
その気持ちの悪いアクセントは?

「マウイ~マウイ~」

あれれ?
お構いなしで続けるんですね。

昔から我が道を突き進む人でしたが、変わらず歳を重ねたんですね父さん、まったくあなたって人は・・・。

「マウイ~マウイ~」

それでもまだ続けますか・・・。
だからいったいなんなんですかそれは?
ハワイ諸島に属する島の名前のことですよね?
暖かいところでのんびりしたいとでも言いたいのですか?

「マウイ~マウイ~」

いやいや、さすがにそれはまずいですよ。
そしてなぜにおせちのダシ巻きタマゴを指差しながら続けますか・・・。

って、
あれあれ?
もしかしてそれは・・・

本当にひょっとするとなんですけれど・・・

「まいう~」のことですか?
だとしたら父さん、あなたは今ひどい間違いを犯していますよ?
自分がそんな間違いをしていたなら今すぐ裸で冬の海に飛び込むでしょうよ。

ええ、本当に。

そのような内容を伝えた途端・・・

「・・・」

と一瞬言葉を失い・・

「え?マ・・・マイウー・・・なのか?」

と久しぶりにまともな人間の言葉を取り戻して聞き返したきた父。
ようやく自分の間違いに気付いた様子。

ええ、
それです。
それですよ父さん。
マウイではなくマイウーですよ。

やればできるじゃないですか。

そんなことがあっただとかなかっただとか、とにかく父はやけにはしゃいでいた。

そもそも「まいう~」なんて言葉、もうすっかり誰も使わないような死語なのに・・・。そしてその死語すら間違えてしまっている。

時の流れは残酷だ。
僕は昔の威厳ある父を思い出しながらほんのり涙した。

ウソだけど。

それにしても今日は梅雨も本番。
外は大雨、雷も鳴ってラウイーだ。

あ、いや、雷雨だ。

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