・・・と聞かれれば「当然、下からだ」と答えるだろう。
なにしろ迫力が違う。
腹に響く音の大きさが違う。
って、いやいや、そういうことじゃない。
花火は少しの例外を除いて球体だ。
どこから見ても丸く見える。
それなのに隣の女子が甘えた声で彼氏に聞いている。
「ねぃねぃ。花火って横から見たら細長いのぉ?」と。
君はバカか・・・。
そう。
その日僕は花火を見ていた。
何年か前のこと。
隅田川花火大会を見ていた。
道路に腰を下ろし、ビールを飲みながら花火を見上げていた。
自分は間違いなく花火を下から見る派だ。
女性だって下から見たい。
いや、上の言葉はなかったことにして欲しい。
それにしても隣のカップルの女子の声がやけに耳につく。
「あ~ん、すっご~い!」だとか、
「おっき~い!!」だとか、
「いや~ん!」だとか。
おやめなさいお嬢さん・・・。
はしたない。
そんな言葉は花火を見終わって彼氏と二人っきりになってからベッドの上で発すればいい。何を勝手に公の場で予行練習をしているんだ君は。へ、変な気分になってしまうぢゃないか・・・。
ったく。
それにしても花火大会。
いつかの夏を思い出す。
あの夏のあの花火大会。
後ろにいた二人の少年。
そのうちの一人がふと・・・
「な、なぁ、俺、なんか我慢できなくなってきた・・・」とボソリ。
そんな言葉を偶然聞いてしまって、えっ?と、
よくわからないけれど、
何かを我慢できないんだろう何かが起きる。
聞きたくもない会話を聞いてしまいドキドキし始めた。
するとさらに続ける彼。
「マジでもう我慢できねぇよ・・・・」
え?ちょ、な、何を・・・?トイレ?
確かにこの人混みの中でトイレに行くのは難しいけれど。
それなのか?
それだとしたらまだ許せはするけど。
関係ないのにこちらが不安になってくる。
とそこで彼・・・
「マジいっちゃいそう・・・」とぶっ込んできた。
え、イっちゃうってなんだ?
イっちゃったらダメだよ。
来られても困るけど。
なのに・・・
「あ~ダメだマジでいっちゃういっちゃうよ、俺」
と断末魔のような言葉を繰り出してくる。
おいおいおいおい。
隣の友人!
そいつを止めろ!
何事かをやらかすぞ!
止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ-!!
「いっちゃっていい?マジいっちゃっていい?」
ダメだダメだダメだ!
公衆の面前でなにをしようとしている。
やめておけ、引き返せ、まだ遅くないぞ、気を確かに・・・
持てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
と心の中で叫んだ後ろで彼・・・
「た~ま~や~!!」
と気持ち良さそうに叫んだ。
そして「はぁ・・・言っちゃったよ」と、
静かに果てた。
・・・って、いったいなにを聞かされているんだ?
そもそも「イっちゃう」って「言っちゃう」のことか。
江戸を代表する花火師の屋号を叫んで身勝手に絶頂に達するんじゃないよ、この若気が至ったお馬鹿さんは。まったくもって迷惑この上ない。
まぁいい。
結局、花火は下から・・・
というかシモから、つまりは下ネタ混じりに見るものということか・・・。
たぶん違うけど。