【2021年4月1日時点での事実】
新型コロナウイルスの感染症状には味覚障害、嗅覚障害があるらしい。
事実1
母は昔から鼻がいいと言っていたし、兄も犬並みだと言っている。
いわゆる犬神家の一族みたいなものなのかもしれない。
最近では社内の少し離れた席にいる女性の香水がやけに強く激しく匂って鼻が痛い。
あまりの激しさに後輩の何人かに「言って、ねぇ言ってあげてよ」と彼女に香水を弱めるように言ってくれと頼んだけれど、まるでそのための機能が完全に壊れたかのように彼らは首を縦に振らない。首関節の調整が必要だ。いやけど、そりゃまぁそうだ、言いにくいから仕方がない。
そんなあるとき偶然彼女とエレベーターで一緒になった。
匂いの強さが脳に作用しエレベーターの室内が真っ黄色に染まったように見えた。
これは彼女、今日は絶好調に臭いなと・・・そう思って、
「えーっと、あれですね、香水、めちゃくちゃ強いですね、遠くからも匂いますよ」
と、それとなく、けれど分かりやすく、遠慮がちに無遠慮な内容を丁寧な言葉で伝えてみた。
初めて交わした会話がそれだったせいか彼女は少々呆気に取られた様子で、けれど場末の売れ残ったキャバ嬢のような見た目通りに「ハァ?」という初めての会話にあるまじき言葉を返してきたし、直後『何言ってんだお前ぶっとばすぞ?』とでも言いたげに見せた不機嫌そうな表情も想像していた通りだった。
そして次の日。
さらに何日かが過ぎ、やはり仕事に集中できないほどに彼女の匂いが強いなと感じていたとき、偶然廊下に出てきた彼女の後ろ姿を見かけたから追いかけて追いついて・・・
「はぁはぁ、すいません、ねぇ、はぁはぁ、すいません」と声をかけた。
変質者さながらの状態でなんとか言葉を選びながら「あの・・・大変言いづらいんですけど、香水強すぎて鼻が痛いんです。少し弱めてもらえませんか?」
と彼女に伝えたものの、歩くことを止めもせずに彼女は、
と『知らないの?馬鹿なの?死ねばいいのに』とでも言いたげな不機嫌そうな顔で、結局まったく歩行スピードすら変えることなく去って行った。
その場に立ち尽くしてしまった僕ことスケキヨは泣きそうになりながらただぼんやりと頭の中でその言葉達を反芻した。
そうして僕は静かに舞台の床にマイクを置くように彼女への引退を告げた。
事実2
それでも会社を休むことなく毎日出社し、そして咳をする。
その揺るぎないサラリーマン魂に敬意を込めて、勝手ながら『コロナさん』と呼んでいる。
コロナさんはもう2週間以上、朝から晩まで咳を繰り返しながら換気の悪い職場で会社のために汗水と唾液を垂らしている。これはもう感染症側にとっては最高の獲物だろう。
こちらとしては溜まったものじゃないから、我慢ができなくなって本人に、
「すいませんけど、コロナに罹っていませんか?」と聞くと、
「違う!違う!」と激しく否定してきた。ということは、きっと違うんだろう。
コロナさん本人がコロナではないというんだからそれはもうコロナじゃない。
『新型コロナウイルスは症状がなくても感染していることがあるらしくて、それがインフルエンザなんかとは違うところらしいで』
『ほな、コロナやん。コロナやなかったら2週間も3週間もカラ咳繰り返すことなんてないわ』
・・・とつい懐かしの漫才師ミルクボーイの流れを書いてしまう。
そんなわけである時から我社でもテレワークの採用が始まった。
これはもうコロナさんが咳をし続け総務部や上の連中達に恐怖心を植え込んでくれたおかげだろう。
そんなわけで事務所も満員電車も感染の危険で溢れている中、テレワークを採用するきっかけを作ってくれたコロナさんには感謝したい。
事実3
コロナさんの上司もコロナさんの出社を認めているんだから。
考察
ここで事実を振り返り考察してみる。
1.そういえば香水の強い彼女はコロナさんのすぐ近くにいる。
2.コロナさんの近くにいる社員達は彼女の強い香水の匂いを感じていない様子。
これ、みんな嗅覚障害にでもなっているんだろうか?
だとしたらもうあれな・・・
おまえらみんな、いちころな。←コレ(タイトル回収)