答えはどんぶりの中

B!

芝居が始まろうとする瞬間、
もしくは映画が始まろうとする瞬間、
はたまたミュージカルが始まろうとする瞬間、
その幕が上がる直前、場内が一旦闇に閉ざされる瞬間、

なぜか観客達は咳をし喉の調子を整える。
一瞬の静寂が訪れている間に、
ここぞとばかりに・・・

ゴホッ!ゴホッ!と。

あれってなんだろう?
と思うと同時に耳障りに感じてしまう。
別にあなた達が演じるわけでもないし、歌うわけでもない。

それなのになぜに今、咳をする?
そして激しく騒音を立てる?

もしかしたらだけど、
その咳は何かの合図なんだろうか?

例えば二階席の誰かに向かって自分の位置を知らせるためのものだとか?そうやって「遠い所にいても僕らは一緒だよ」とでも言いたいんだろうか?

つまりは隣同士のチケットが取れなかったカップル達が醸し出す愛のモールス信号なんだろうか?

だとしたら一緒に劇場まで来て隣の席に座れないなんてなんとも悲しいデートだ。

それともそれは敢えての選択なんだろうか?

だとしたら彼氏は興奮すると激しく強烈な汗とニオイを発する人か、貧乏揺すりが激しい人か、それとも作品に対して激しく罵倒を浴びせるタイプなのか・・・いずれにしても一緒に喜びを共有できない相手なのであれば即座に別れた方がいいと思う。

きっと遠くない将来、二人の愛は終わりを迎える。

って、知らんけど。
そもそもそんなことはどうでもいい。

いずれにしても芝居の幕が開く直前のあの瞬間はとても好きだ。
劇場内が徐々に暗くなっていくあの瞬間・・・

「ああ、いよいよ始まる・・・」

とドキドキとワクワクが最高潮まで高まるあの瞬間。

そして真っ暗な中、音楽は一度大きくなり、次の瞬間、闇を払うように幕が開いた時、光に満たされた輝く世界がそこに広がっている。あっという間にステージに心を奪われる。

そうやって闇と光の一瞬の切り替えが、なにかのスイッチのように日常から全く別世界へ連れて行ってくれる合図になる。

そんなことを書いているのはつい先日、芝居を観てきたからで、新宿の端っこの方にある小さな劇場に行ってきた。

午後7時からの開演なので早めに夕飯を済まそうと6時過ぎにラーメンを食べに行った。

“九州とんこつラーメン”のコテコテでブタブタのスープは、1時間ぶっ通しで走らせた豚から噴き出した大量の汗をぞうきんで吸い取って、間髪入れずに絞って丼に入れたくらいにコテコテだった。

そこに紅ショウガを入れ、
ゴマを削り入れ、
酢を入れ、

自分好みに味を整えながら楽しんだ。

そうして食べ終わって劇場へと向かい、席について待つことしばし、やってきた午後6時59分。

芝居が始まるまさにその直前。

突然、どうにもさっき食べたゴマや酢が喉を刺激するなと気になり始めた。

だから仕方無く。

本当に仕方なく、咳を・・・した。

芝居の幕が上がる直前、場内が一旦闇に閉ざされるその瞬間に。
芝居が始まったあとに咳をするのは気が引ける。
だから今しかないと覚悟を決めて。

ありったけの肺活量を使って・・・

ゴホッ!ウェーッ!ゲホッ!ホゲッ!ウゲッ!ゲボッ!・・・と。

そこで気付いた。
ああ、そうかと。

なぜ観客達は芝居が始まる直前に咳をし、喉の調子を整えるのか?

ラーメンのスープが激しく喉を刺激するからだ。

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