頭の中の花畑で駆け回る豚達

B!

それがいったいいつのことだったのかはとっくの昔に忘れたけれど・・・

いつかの夕方、
出張のための飛行機に乗る前、
やけにお腹が空いていたものだから、
機内でお弁当でも食べようと売店に向かった。

すると・・・

今となっては誰も知らないだろう生キャラメルで有名な“花畑牧場”というブランドがお弁当を出しているのを発見。生キャラメルだけじゃなかったんだ?と驚いて「ほえー!」となった。

さらにはそのお弁当に使われているお肉が、牧場で獲れたチーズをたっぷりと食べさせた豚肉で、ジューシーで柔らかく上質なものだという説明書きを読んで、期待に胸がDカップ程に膨らんで再び「ほえー!」となった。

そしてその豚の名前が“ホエー豚”だというから三度目の「ほえー!」がやってきたけれど、人は一日に三度「ほえー!」となるとアホになるらしい。とはいえ、この場合はすでに一度目を言った時点でアホになっていたんだと思うし、そもそもの根本がアホなんだと思う。

いやもう何を言っているのかわからないけれど。


↑噂のホエー豚弁当、というか豚丼だドーン!!

いずれにしてもそんなホエー豚のお弁当を購入し、飛行機の中に持ち込んだ。

上空にたどり着くまでは我慢しようと膝の上にお弁当を抱え、離陸待ち状態からずっと期待でいっぱい、頭の中は豚でいっぱい状態だった。いったいこのお弁当はその美味しさで自分をどれだけアホにしてくれるんだろうかと、頭の中を豚が駆け回っていた。

そうしているうちに飛行機は離陸し、十分な高度に達し、水平飛行へと移行し、シートベルト着用のサインが消えた・・・

と同時にお弁当のふたを開けた。
待ちきれない。

すると・・・

そこには写真とは似ても似つかぬ乾いた豚達がごはんの上で息も絶え絶えに横たわっていた。

「え?なにこれ?」

と思わず漏れ出る疑問の言葉。

出るのも仕方がない。なぜなら、お弁当の蓋の写真に使われていた豚肉が20歳のピチピチだったのに、実物は90歳のヨボヨボだったからだ!!

肉は渇き、そのまわりを白く固まった脂が重ねてきた年輪のように縁取っている。“美味しいチーズを大量に与えました”はいいけれど、それは結局のところ脂肪を与えすぎただけってことじゃないだろうか。

申し訳ないけれどジューシーさのカケラもないし、むしろ柔らかくもなさそうで固そうに見える。食べる気すら起きない。

どうするこれ?ねぃねぃどうする?食べるのこれ?

と否定的に自問してみたものの、回答権は空腹の胃袋が握っているので『イエス』以外の自答がみつからない。

戸惑いながらためらないながら渋々食べてみたけれど、それは結局のところ単なる空腹を満たす作業と、初見の感想に対する確認作業でしかなく、見た目通りやっぱり肉はすこぶる固く、そしてマズかった・・・。

そして見た目以上にひどかったのがごはんで、固さにムラがあり、その場でクレームの電話を入れたくなるくらいに食感が不快だった。

ちなみにこのお弁当、ごはんと豚肉の他には少量のポテトサラダが申し訳なさそうにちょっと添えられているだけで、食材のバランス的にいえば非常に不健康なものになっている。

もっと言うとこのお弁当(ああ、もうやめおけばいいのに・・・)・・・

容器はやけに大きいけれど、実際は中に一回り小さな容器が入っているせいで中身は見た目ほど多くはない。

そんな持ち運ぶ人の手間を考えない、そして弁当屋のスペースを考えない、売るためだけの客をバカにした戦略にやけに腹が立ってしまい・・・

なんなんだいったい、と思いながら今度は否定的に四度目の「ほえー!」の言葉が出た。ほえー!の四段活用的なものかもしれない。

ここで「頭ん中、お花畑なんかいっ!」のツッコミを入れてあげるのが正解のような気もしたけれど、あえて「この豚野郎がっ!!」と罵ってあげたのは、豚丼の豚に対するほんの少しのリスペクトと、お弁当ひとつでここまで文句が言える自分の方が豚野郎だなと思ったせいかもしれない

そしてこのお弁当はいつのまにやら無事、販売終了になっていましたとさ。ぶー。

※ついつい弁当に“お”を付けて“お弁当”と書いてしまうのは育ちの良さのせいです。

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